17巻:キングダムー李牧と呂不韋ー

キングダム(17) (ヤングジャンプコミックス) [ 原泰久 ]

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六大将軍・王騎の死は、秦国内に大きな影を落としていました。

さらに、周囲の国との戦いも増加。
前線各地では激しい戦いが繰り広げられ、三百将となった信が率いる飛信隊は、その名を轟かせていました。

飛信隊は趙戦の功績から特殊部隊のままどの軍にも直属せず、援軍として参戦。
趙戦以降、手強いと感じるほどの敵にあうこともなく連戦連勝。
味方からは頼りにされる存在、敵からは警戒される存在になります。

そんな中、燕と趙の間で大きな戦いがあったことを知らされます。

その大将は李牧。
不落の城として有名な燕の武遂と方城を、一方的な展開で落としたというのです。

そして咸陽の王宮では、趙の宰相・李牧が秦に来朝するということで、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていました。




急ぎ咸陽に戻る信と羌瘣。
李牧の来訪は大王である政に相談することなく呂不韋の独断でおこなったため、昌文君たちをはじめ政側の重臣は怒り心頭です。

李牧が敵国である秦に来ることになったのは、趙王の寵愛を受ける春平君(しゅんぺいくん)という美青年を呂不韋が人質として捕らえたから。

秦の丞相になるまえは韓・趙で商いをしていた呂不韋は、春平君にお金を工面したことがある間柄。

二人の力で秦趙の国交を回復させようと書簡をひそかに送り、呼ばれるがままにこっそりと来た春平君を拉致。
春平君を返してほしければ、宰相自ら迎えに来させろと脅迫したのです。

李牧を敵国・秦に行かせるなど、死なせに行かせるようなものだと反対する家臣たち。
ところが、趙王は耳を貸さず、断れば反逆罪で打ち首にすると。

李牧は、「咸陽と呂不韋という人間をこの目で見る良い機会です」といい引き受けるのでした。

 

咸陽についた信と羌瘣は、昌平君のところに案内されます。

そこで、呂不韋が李牧を呼んだことを聞く信。

「私が合図したら李牧を斬るのだ」という昌平君に、間髪入れずきっぱりと断わる信。

「そんな卑怯でくそみてぇなマネ、誰がするか。王騎将軍に合わせる顔がねぇだろうが」と。

ところが、信以外の者は李牧を殺す気満々。
蒙武や騰と軍長達、そして朱凶も殺気だっています。

実は、昌平君がわざわざ信を呼んで会見の場への同席を許したのは、王騎より矛を受け取っていたからでした。
李牧への敵討ちがおこなわれるかもしれないということで、温情として声をかけたのです。

 

そして始まる秦と趙の会見。

李牧の姿に、文官たちは「もっといかつい男かと思っていた」と、少々肩透かしをくらった様子。

でも、武人たちの反応は逆。

見た目とは逆に武の匂いに覆われてる。
とんでもない数の戦場をくぐり抜けてきた人間と、化け物を前にしたようにたじろいでいます。

一方、趙の方では、呂不韋の大きさに圧倒されていました。

 

世間話から始める呂不韋と李牧。
軽い応酬から、昨年の大戦…王騎を討った戦の話になります。

自分のことを「小心者」という李牧に昌平君は、「やはり李牧殿にはここで死んでもらう」と宣言。

ただの策士なら殺すに足らないと思っていたが、貴殿は恐ろしく強大に見える。
だからここで殺す…というのが、呂不韋が李牧を殺すと決めた理由。

そして、「こうなることは予測済みのはず。天才李牧はどうやって切り抜ける?」と問いかけます。

その問いかけに、李牧は「我々が無事に帰れるように、私は手土産を持参しました」といい、部下に持ってきた地図を開かせます。

 

地図を元に、話しはじめる李牧。

周囲の国との力関係が絶妙な均衡を保っている理由を述べ、中華統一を目指すなら、まずは弱いところ…小さい韓をつぶすのが先と述べます。

ただ、韓をつぶそうとすると、韓が砦にもなっている趙と魏が援軍を韓に送るため滅ぼすことができない。
だから、まずは韓ではなく魏を攻め込むのが得策となる。

魏が韓を助けられなくなるまで、徹底的に叩き潰す。
そうすれば、韓を助けるのは趙だけになる。

この時、趙が韓を助けないことを李牧宰相は約束すると提案します。

ただし、趙が今攻め滅ぼしたいと考えている燕との戦いに集中している間は、絶対にこちらに手を出さないと約束して頂きたいのが条件だとも。

つまり、秦と趙の間で同盟を結ぶというのが、李牧が持ってきた手土産だったのです。

 

同盟という言葉に誰もが驚き口を開けないでいるなか、王騎の軍長が怒声を上げます。

「茶番は十分だ。さっさと号令を下されよ、丞相」と迫る中、当の呂不韋は「場をわきまえぬか、下郎が。これは茶番ではないぞ」すごみます。

さすがの呂不韋も、趙国側から同盟を持ちかけられるとは思っておらず。

昌平君も、感情的なものを除外して考えるなら決して悪くないと、同盟した場合の動きを素早く試算。

蔡沢も「同盟を結ぶことは、大きな得はあっても損はない」とし、長平の恨みを持つ趙側から同盟を持ち掛けてきたことに驚きつつ、李牧を高く評価します。

 

ところが…

ほとんどの文官たちが心の中で賛成しているのに、呂不韋は何を考えているのか「断る!」ときっぱり。

これには蔡沢も昌平君も、そして他の文官たちも驚きを隠しえません。

呂不韋は「わずかだが、そなたの首の方が値が張ると儂はみた」と理由を述べます。

そして、「ごくわずかの差だからこそ、交渉の余地はある」として、城を一つおまけにつけてくれと言います。

呂不韋が希望したのは、趙南西部の韓こう。

李牧が宰相に就任してすぐに強化した城であり、中心には巨大な城が完成間近。
仮に戦ってその城を取ろうとするなら、莫大な兵の命・金・時間がかかると言われている城です。

 

そんな呂不韋の言葉に、「宰相とはいえ一存では決められない」とわずかな抵抗を見せますが、呂不韋は「そなたが渡すと言えば、趙王は必ずするはずだ」と譲りません。

他の城の案についても、「代わりなら城10個分は必要じゃ」と、これまた厳しい条件。

「わしはこれまでの商談で、一度口にした値からビタ一文もまけた事がない」という呂不韋の言葉に、さすがの李牧もついに折れます。

秦趙同盟の成立です。




 

本殿での会合が無事に終わると、副殿で秦趙同盟を祝して宴がおこなわれました。

ただ、祝宴というのは名ばかりで、華やかな会場とは裏腹に空気はピリピリしています。

信が空いている席に座ろうとすると、「そこはまずいと思いますよ」と声が。

みれば、酒を手にした李牧が目の前に。
信は、ちょうど席を外していた呂不韋の席に座ろうとしていたのでした。

王騎将軍をやった男が目の前にいる!

思わず構えてしまう信。

信と同じ気持ちのものは他にもおり、王騎の側近が「付き合ってられぬ」と退出。
蒙武も、一応礼儀として壺の酒を一気飲みし、「酒が尽きた」と言うや退出。

信を呼ぶ昌文君の声に、李牧は目の間にいる少年が趙将・馮忌(ふうき)を討った特殊部隊の隊長・信であることに気がつきます。
李牧の耳にも、諜報員から王騎の矛を受け取った話を聞いており、特別に目を掛けられていた兵士であることは知っていました。

そして、「残念でしたね。今回、私がここで死ぬことがなくて」と、信を試すような目線で見つめる李牧。

そんな李牧に信は「お前が死ななくて残念なんて、これっぽっちも思ってねえよ。お前の死に場所が、こんなしょうもねぇ所のはずがねぇ」と言います。

「王騎将軍から、他にもでっけぇもんをいっぱいもらったんだ。
今はまだ三百将だが、これからどんどん俺は上に上がる。
俺と隊の名を天下にとどろかすんだ」

静かに、でも意思の強い言葉で李牧に語る信を、その場の全員が固唾をのんで聞いています。

「だからいいか、李牧。
この顔とこの言葉をしっかりと頭に叩きこんどけ。
お前をぶっ倒すのは、この飛信隊の信だってな」

その言葉に李牧は、「いいでしょう。あなたの顔と言葉は忘れません。しかし、私を倒すのは至難の業ですよ」と、真っ向から信の言葉を受け止めます。

そこに、昌文君がやってきて信を回収。

さらに呂不韋も戻ってきて、場の雰囲気から何かあったのを察して李牧に問うも、「つい大人気なくからかってしまったのですが、まんまときれいにやり返されました」と答えるのでした。

 

秦趙間では、春平君を引き渡す代わりに平都侯という趙国財界の大物が身代わりとして残る事が決定。

帰路に着く李牧たち一行の中にカイネを見つけた河了貂。
懐かしさからしばし会話を交わしますが、そこに信が来て中断。

「時間がない!早く来い!」という信についていくと、そこには政の姿が。
懐かしさに3人の顔がほころびます。

 

信は、李牧との会見で気になっていたことを政にぶつけます。

あの場は呂不韋に完全に支配され、政の気配はもちろん一言も話さない状態に「権力争いの状況は悪化しているのか?」と心配していたのです。

ところが、それは政の策であり、内面を悟られないように合えて存在を消していたのでした。
実権を握った際、一番に強敵となる李牧に対しての警戒です。

また、呂不韋に押し付けられた難題の治水工事が成功してきていることなど、状況的にはまったく悪いわけではないと。
むしろ善戦しているという政。

そんな政に「でも、やっぱり呂不韋は強大だよ」と心配そうな顔の河了貂。

政は「俺に残された猶予は5年しかない」と宣言します。

5年後に22歳になれば加冠の儀があり、秦国君主として認知され、呂氏派の中からもこちらに流れてくるものが出てくる。
だから、それまでに呂不韋は必ずこちらを潰しに来ると。

「俺をそれを跳ね返し、5年後に奴から実験を奪い取る」と宣言する政。

そして信に「5年で将軍になれ」と命ずるのでした。

 

「5年で将軍になれ」という政の言葉から、戦いでも焦った様子の信。
そんな信のところに、亜水城にいる麃公将軍に会いに行く途中の壁が訪ねてきます。

壁は、秦趙同盟によって魏への攻略戦が始まろうとしている旨を信に伝えにきたのです。

大戦の総大将候補として麃公将軍と蒙驁将軍の名前が挙がっており、意見を聞きに行く途中の壁。
極秘事項ではあるものの、将軍を目指す信の事を考えて伝えにきたのです。

大戦で成功を上げるためには、あらかじめ軍の中でも重要なところに配置されておかなければいけない。
そのために、魏攻略が始まるまで、小さな武功でも確実に積み重ねて、少しでもいい配置で本線に臨めるようにしろと。

すでに、有力筋にもこの情報は漏れており、野望ある者たちがぞくぞくと集まってきているという噂もあるほど。

礼を言う信に、「お前は目の離せない弟のようなものだ」と言います。

 

数日後。
信たちがいる前線で、珍しく大きな戦が勃発します。

本陣めがけて突破していくのですが、着いた頃にはすでに壊滅状態に。

驚く信たちの前に現れたのは、秦南軍の特殊三百人隊「玉鳳隊」の三百将・王賁(おうほん)。

どこの所属の部隊だという問いかけに答えると、玉鳳隊の面々は大笑い。

怒る信に、「無礼を許せ。しかしこれには理由がある」という王賁。
玉鳳隊の耳にも飛信隊の名は届いており、その存在を警戒していたのですが、噂通りの農民歩兵の集まりに驚いてしまい、つい笑ってしまったのだというのです。

結局同じ三百人隊だとうがと怒る信に、「同じなわけがないであろうが、馬鹿者」と玉鳳隊について語り始める王賁。

玉鳳隊は貴士族の中でも幼少期より軍事教育を施された英才集団。
個人・集団戦術を叩きこまれている。

それに対して飛信隊は本職が農工で戦の素人。
たまたま武功を立て続けに挙げて嬉しいのはわかるが、玉鳳隊と同列と思われては不愉快だと。

さらに、「君たちの正しい存在価値は“蟻”だ」とバッサリ。
「どこのバカがたきつけたかは予想がつくがな」という言葉に信が反応します。

去ろうとする王賁に「貴族か士族かしらねぇが、戦が始まりゃそんなもん関係ねぇんだ!」と言う信。
王賁は「蟻の話が理解できていないようだな」と、副将の番陽副長に声をかけます。

番陽副長は飛信隊に近づくと、馬上の上から号令をかけます。
その声にとっさに反応する飛信隊。

「そういうことだ、少しは理解したか」と笑いながら去りかけるのを、「我慢の限界だ」と信が止めます。
「そのおもちゃの剣でか?」という言葉に飛び掛かる信ですが、すかさず王賁が槍でそれを防ぎ、信に一撃を食らわせます。

「正直ずっと目障りだった」と、力の差と身分の差を示す必要があるとし、信に自分の名前と家柄を明かす王賁。

なんと、王騎の一族…それも分家だった王家とは異なり、王一族の総本家の長男だったのです。
これには信もびっくり。

「我らはしばらくこの前線に留まる。この先、武功はあげられぬと覚悟しておけ」と言いすてると去っていくのでした。

 

その夜。
荒れる飛信隊。

百姓と貴士族との超えられない差…壁を久しぶりに思い知らされたという松左に、「そんなの言い訳だろ」と一刀する信。

「昼間の一件は、玉鳳隊に気圧されて下を向いてしまっただけだ。
いきなり一発ガツンとやられて戦意喪失しちまったんだよ。
王騎将軍の血縁だかなんだかしらねぇが、今度はこっちの番だ。
やられた分、きっちりやり返すぞ!」

信の掛け声に、飛信隊の士気も回復。
玉鳳隊よりも先に手柄をとるべく、その策を練るのでした。

 

老兵の助言から、霧と屍に紛れながら刃を交えることなく敵本陣まで忍び寄る方法を実行します。

途中、敵兵に見つかりそうになりますがなんとかこらえ、その甲斐あって敵本陣を玉鳳隊よりも先に討ち取ります。

そうとは知らずに現れた玉鳳隊に、「馬に乗ってんのに蟻の俺らに先越されるなんて、軍事の英才教育もたかが知れてんなぁ」と言う信。

雪辱を晴らした瞬間でした。

 

その後も、激しい手柄獲得の争いを繰り広げる飛信隊と玉鳳隊。
玉鳳隊が敵将をとれば、今度は飛信隊。

競っているかのように武功を上げる二つの隊の名は、他の隊でも話題になっていました。

その様子を静観しているもう一つの隊の姿が…。
蒙恬が率いる特殊三百人部隊「楽華隊」です。

蒙恬は大将軍・蒙驁(白老)の孫であり、蒙武の長男。

先の韓戦で武功を上げ千人将に昇格したはずなのですが、蒙驁の「もう少し三百人将で経験を詰め」という命で昇格はなしに。

「じい様は身内に異常に厳しいよな」とやる気がない様子。
華やかな街で買い物すると移動するのでした。

 

その頃、咸陽では新たな動きが。

肆氏の屋敷に、政の母がいる後宮からの使者が訪れ、王印の入った書簡を預けていったのです。
肆氏は集会を呼びかけ、政側の幹部が集まる中その書簡を差し出します。

後宮から王印の入った書簡が届いたという一大事に、皆が色めき立ちます。
なにせ、後宮から書簡が来ただけでなく、偽物の王印が使われていたからです。

王印は先の王弟・成蟜が反乱を起こした際、政が咸陽から脱出する際に玉璽(国王が用いる印章)を後宮に隠していました。
その際に、複製を作っていたのです。

現在の咸陽は、呂氏派・大王派・後宮といった勢力図で成り立っています。
ただ、後宮は呂不韋でも手を出しあぐねているほどの場所。

千人を超える名池出身の宮女と無数の宦官からなる後宮は、その後ろに有力者たちの姿があります。
それらを束ねるのがゆえに、後宮のトップに君臨する政の母は絶大な勢力を持つ第三勢力となっているのです。

「政の母であれば話は早いではないですか」と、政側の力になってくれるのではと口にする壁。

ところが、「そう簡単な問題ではないのだ」と訳あり顔の昌文君。
当の政も「そう単純ではないのだ」と難しい顔です。

これまで政や呂不韋が後宮に手を出さなかったのは、太后勢力を政治に近づけぬため。

後宮には醜悪な宦官共の巣窟となっており、特別な治外法権で守られた後宮勢力が政治にも権力を持つようになると、その制御が難しくなる。
だからこそ、呂不韋さえも手を出さななかったのです。

 

そんな、これまで政と呂不韋の争いに沈黙を続けていた後宮からの書簡。
中に何が書かれているのかと開けてみると、そこには何も書かれていない白紙があるだけでした。

どういう意味だと壁をはじめ訝しがる臣家たち。

昌文君と肆氏は「大王派と呂氏派のどちらにつくか決めかねているともとれる」と解釈。

政も「あの人の胸の内は我々では早々には推しはかれぬ。中立か、それとも別の意味があるのか…」とはっきりしません。

ただ、王印を複製して見せつけているところに目をつけ、「この悪事は、後宮勢力にも目を向けよという意味だ」と断言します。

 

後宮には三大宮家が付いているので、これを取り込むかどうかで勢力図が大きく変わるのではと進言する肆氏に、昌文君は「太后様は猛毒です」と反対します。

後宮に対してどう対応するのか…議論が白熱するなか、何事か考える政。
その考えは翌日に示されました。

なんと、昌文君にも告げずに一人で太后に会いに行ったのです。

肆氏からその話を聞き慌てる昌文君。
ただ、すぐに「いや、これはもはや大王様と太后様、お二人の問題だ」と、覚悟を決めます。

そんな昌文君の態度に、壁がたまらず「そもそもなぜ母上である太后様は大王様をお助けにならぬのですか!?あのお二人の間には一体何が?」と問います。

壁の質問に対して昌文君は、「あのお二人の間には、趙・邯鄲での人質時代の思い出しかないのだ」と答えるのでした。

 

【次巻】18巻:キングダム

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