キングダム(19) (ヤングジャンプコミックス) [ 原泰久 ] 価格:583円 |
「貴士族なんかに負けるなよ」
と声をかけてくれた郭備千人将が、何者かに暗殺。
仇を取ると暗殺者を探し出そうとする飛信隊に、またもや千人将が殺された知らせが入ります。
愕然とする信たち。
相次ぐ千人将の暗殺に、さすがに騒がしくなってきた秦軍。
将軍・羅元は、巡回の警備兵を三倍に増やす事、城門を閉ざし一人も通さないように指示を出します。
そこに蒙恬がするどい推理を。
「将軍の代わりはききません。もし、あなたが討たれでもしたら、この蒙驁軍は本当に機能しなくなると」と進言します。
天に寵愛される武将
一夜で八人もの千人将を失った蒙驁軍。
次の城に移動する進軍は、厳重警戒そのものでした。
その様子に、さすがの蒙恬も「これを刺客風情が襲うというのは、あまりに非現実的だ」と思います。
ところが…
重騎と重歩兵が堅めるなか、羅元が暗殺者である廉頗四天王・輪虎によって討たれます。
叫ぶ兵士の声に驚愕する蒙恬。
「伏兵だ!!」
「下ったぞ!」
という声を聞きつけた信たち飛信隊のところに、輪虎隊が近づきます。
戦闘態勢に入る飛信隊ですが、輪虎の気迫に飲み込まれ動けない。
唯一動いたのは信だけ。
輪虎は飛び掛かってきた信の腕をつかむと、そのまま馬を走らせながら木々に当て、さらには一刺し…のところを避けます。
腕を離された信は、そのまま地面に激突。
輪虎は部隊を先に行かせると、「この僕の殺気にもひるまずに、剣もかわされた。僕の腕がおちたのか…それとも君がとっても強いのか」と、信を見つめながら言います。
「俺が強ェにきまってんだろ!!」といきり立つ信。
輪虎は「素直」と笑いながらも、手元の木札に名前がないのを理由に戦うことなくその場を離れようとします。
郭備千人将を殺した張本人だと知ると、再び飛び掛かる信。
信の剣を受け止めた輪虎は、信から“武将の空気”を感じ取ります。
ここで息の根を止めておいた方が得策だとばかりに戦闘態勢に入る輪虎ですが、そこに飛信隊がぞくぞくと駆け付けます。
飛信隊が信を慕っている姿を感じ取ると、「…やっぱり今日はやめとこうかな」と剣をおさめます。
そして、「本当に天に寵愛される武将は一握り」と、その場を去るのでした。
魏国王都・大梁では、廉頗と四天王・姜燕が戦局をみていました。
姜燕が今回の戦になぜ参戦したのかを訪ねると、「3年前に、王騎にそそのかされていたのよ」と答えます。
廉頗が亡命した3年前、王騎が廉頗の屋敷を訪問。
最大の敵でありながらも、どこかで苦しみと喜びを分かち合っていた友として、酒を飲みかわします。
そこで王騎に、「退屈したら蒙驁軍と戦え」と。
蒙驁が持つ、強力な二本の剣…二人の副将は、まだ世が気付いていない“化物”だというのです。
その頃、蒙驁が持つ二本の刀の一つ、副将・桓騎の陣を、丘の上から見下ろす輪虎の姿が。
今まで見た事のない不思議な布陣に、「行けば必ず全滅する」と直感。
そのまま踵をかえします。
蒙驁と廉頗
信のところに来た蒙恬。
「気になることがある」と、先の将校達が討たれた話をします。
輪虎について問われると、「今までの敵とは、まったく別物だ」と答える信。
蒙恬は、廉頗について話します。
そこに、「相変わらず、勘の良さだけは一人前だな」と、その話をこっそり聞いていた父・蒙武が。
蒙恬の父が蒙武と知り、「似てねぇ」と驚く信。
今回の戦に参戦しない蒙武は、昌平君の伝者代わりとしてきたのでした。
内容は、蒙恬が予想していた通りの「廉頗が敵将として出てくる」というものでした。
蒙武の話に、驚く臣下たち。
怖気づく臣下たちに、蒙驁は「廉頗の出現は想定外のことではない。副将達とも初めから対応策は練ってあるわい」と余裕の貫禄をみせます。
その言葉に臣下たちは安心しますが、その場を離れた蒙驁の心中は穏やかではありません。
蒙武も、その言葉が臣下を動揺させないためのハッタリであることはわかっていました。
なぜなら、蒙驁は廉頗と戦うのは初めてではなく、一度も勝てたことがない相手だから。
それが原因で、斉から秦に流れるようになったという過去さえも。
つまり、蒙驁にとって廉頗は、“どうしても超えられない壁”だったのです。
夜。
蒙驁は小汚い歩兵に化けて、陣内を徘徊していました。
これは、蒙驁が大きなプレッシャーを受けた時のクセ。
最後、静かな草っ原に身を投げ出して、頭の中を空っぽにします。
そんな蒙驁に気が付かず、ウサギを手にした信が走り寄り、顔を踏みつけてしまいます。
「悪かったな、じーさん」と、捕まえてきたウサギを火で焼いて渡す信。
飛信隊の信と知ると、「この子が王騎の矛を受け取った…」とじっと見つめる蒙驁。
「こんなところで何してんだ」と問いかける信に、「軽く現実逃避を」と答えると、「三百将が聞いてやる」とおどけながら言う信。
少し考えた後、蒙驁はぽつりぽつりと話し始めます。
蒙驁の話に「そのじじィ、すんげぇな」と驚きながらも、「悩む意味が全っ然わからん」と困り顔。
「じーさんの一発逆転の好機が生まれたって話だろ!」
「次、勝って、勝ち逃げしてやれよ。そうすりゃ、じーさんの総勝ちだ」
という信の言葉に、蒙驁は高笑いします。
翌朝。
第一軍の再編成がおこなわれました。
千人将を失った穴埋めとして、その部隊の副将が繰り上げ、もしくは隊を解体して他の増兵に回すといった対処がとられました。
ただ、まだ2つの千人将の席が空いたまま。
そこで、三百人将の二人を、臨時的に千人将に昇格することが決定したのです。
緊張する信ですが、選ばれたのは楽華隊の蒙恬。
そして、玉鳳隊の王賁。
その発表に落ち込む信ですが、そこに突如、蒙驁が「飛信隊の信、前へ」と呼びます。
皆が「?」となる中、呼ばれて前に出た信。
蒙驁を見て昨夜のじーさんだと知り驚きの声を上げかけますが、蒙驁はそれを手で制します。
そして、「先の趙戦の功まで考えるなら、三百人将以上の力があることは十分しめしている」として、特別に信に千人将の席を設けてやる価値があると驚きの提案をするのでした。
ただし、あくまでもこの提案は蒙驁の独断であり、この昇格を受けることで周りの反感を買う事は間違いない。
そこで、これらを黙らせるためにも厳しい条件を付けると。
それは、敵将の首。
千人将なら3つ以上、将軍なら1つ以上。
落とせなかったら、三段階降格し、伍長からやり直し。
事実上、飛信隊の解散です。
蒙驁の提案に、信はひるむどころか自信満々に「だから言ってるだろ、そんなの悩むところじゃねぇって」と答えます。
さらに、もしも条件達成できなかったら一番下っ端からやり直してやる、将軍の首一つなんてみみっちいこと考えていないとも。
その言葉に、昇格を決定する蒙驁。
喜び、信に駆け寄る飛信隊。
丘の上からその様子を見ていた蒙武は、「蒙驁は他の大将軍に比べて軍才が劣るが、人を見る目は天下に比類ない。その蒙驁が推すのであれば、問題ないであろう」と、心配そうに言う部下に言うのでした。
その頃、魏の王都で大きな動きが起こります。
廉頗が前線に向かって出陣したのでした。
信千人将
1,000人に増えた飛信隊。
農民兵300人を囲むのは、騎兵に甲冑を着ている歩兵とみるからに士族。
百姓部隊にくっつけられて怒っているのではと心配する尾平達ですが、そんな不安を払拭するように、新しく加わった700名が、楚水の号令の元、信に対して拝手します。
楚水たち700名は、元郭備隊。
飛信隊の活躍を隊長の郭備より聞いていた楚水たちは、飛信隊に加わることを本望としていたのです。
楚水たちを副長として迎え入れた信は、「狙うは敵将、廉頗の首だ!」と隊の士気を上げます。
「よーう、蒙恬千人将」と声をかける信に、「これはこれは信千人将」と楽しげにあいさつする二人。
そこに「浮かれすぎだ」と王賁がやってきます。
「軍内には上層部を含めて、俺たちの昇格を妬む者が大勢いる。この戦に敗れれば、戦犯扱いを受けるぞ」と、活を入れると自分の部隊へと去っていきます。
偉そうにピリピリしてんなと憤る信に、「名家に生まれた重責ってものもあるんだよ」と、同じく名家出身の蒙恬はフォローします。
その頃、秦軍のもう一人の副将である王翦が山非城を陥落。
その異常な強さに、千人将として参戦していた壁は驚きを隠せません。
そして、これほどの力を持った将軍の名前が国内に鳴り響いていないことにも。
それは、趙で事態を静観している李牧たちも同じ。
本来なら邪魔を入れるのですが、同盟のためできません。
山陽攻略という大戦略を立てたのは昌平君だと読むも、王翦と桓騎という存在がノーマークだったことに驚きを隠せません。
趙としては、是が非でも魏に勝ってほしいところ。
李牧は、「廉頗将軍に正面から勝てる武将は、私も含めて天下に一人もいませんからね」と、その勝利を確信するのでした。
羌瘣の決心
決戦の地・山陽に、秦軍・副将王翦軍、次いで廉頗と到着。
秦軍・副将桓騎軍も到着しますが、主戦場から遠い場所に布陣します。
その様子に、「相当、クセの強い武将のようじゃのう」と、廉頗は分析します。
両軍のにらみ合いが続く中、飛信隊が属する蒙驁軍も現地へと急ぎます。
その途中、羌瘣は信に「二人で話がしたい」と声を掛けます。
夜、少し離れた場所で話をする信と羌瘣。
象姉の仇を打たずに前に進めない。
敵討ちを後回しにしてここにいるのは、ここが今の私にとって唯一の帰る場所だからだ、と自分の気持ちを離す羌瘣。
「私の道は、象姉の敵討ちの先に広がっているんだ。だから、この戦いが終わったら、私は飛信隊を出ていく」と。
そして、きっちり仇を討ってここにまた帰ってくる。
その時こそ、一緒に前に進めると思う、と。
羌瘣の言葉に「異議なし!」とうなずく信。
信の言葉に、「ああ」とうなずく羌瘣でした。
開戦!山陽の戦い
ついに山陽に到着した蒙驁軍。
副将・王翦と副将・桓騎が出迎えます。
初めてみる二人の副将の姿。
「聞いたことがねえな。ってことは、大したことねぇと…」という信に、「バカ、二人とも化物だぞ」と教える蒙恬。
桓騎は元大野盗の首領であり、性格は残忍。
投降兵もろとも殺しまくる気性の粗さがあり、“首切り桓騎”という異名があるほど。
「くそ野郎じゃねぇか!」といきり立つ信ですが、独自の兵法は天才の域にあるものであり、野盗だった時には、秦の討伐軍は一度も勝てたことがなかったといいます。
そして王翦は、王賁の父であり王騎将軍を輩出した名門・王一族の元党首。
秦国一の危険人物として、昭王の時代から日陰の存在に。
その理由は、自分が王様になりたいという野望があるという噂からでした。
一方、魏の方でも全軍が揃い、総大将として白亀西の姿が。
廉頗が総大将ではないのには理由があり、自国民ですから廉頗は魏王の信を得られずに戦場に立てなかったと思っているから。
いきなり大将になっても兵士の士気は上がらないと、今回は裏方で指示を出す形にしたのです。
総大将が廉頗でないことに、秦軍も驚き。
「これで廉頗が本陣にいるとは限らなくなった」と、警戒する蒙恬。
さらに、先陣が王賁だと知ると「久造の千人隊で第一陣とは…正直、王賁もそのくじは引きたくなかったはずだ…」と、その厳しさを読み取ります。
それは信も同じで、思わず「王賁!」と呼びかけますが、王賁は無視して行ってしまいます。
「賁様、先陣とは絶好の機会を得ましたな」と、やる気満々の玉鳳隊副将。
「知らしめてやりましょう」という言葉にうなずくも、心中では父親・王翦へにも向けてうなずく王賁。
王翦は離れたところから、先陣を見つめています。
そして始まる戦い。
王賁がすさまじい勢いで突き進む中、同じく先陣を取り仕切る輪虎が的確に指示を出していきます。
同じ先陣を担う魏軍を「よそ者の僕が指揮官であっても、きっちり戦っている。これは扱いやすくて助かるな」と分析すると、輪虎隊500を集めて突進していきます。
輪虎隊が動き出したことで、押されていた魏軍が勢いを取り戻し攻勢に。
輪虎が狙うは、自分が葬った千人将の代わりを務めることになった急造隊です。
王賁 VS 輪虎
戦いの中、王賁は新加入した700人の隊の動きが、自分たちの隊とは常に一呼吸遅れていることに、少しばかり焦りを感じていました。
そこに、輪虎が登場。
王賁は輪虎に一騎打ちの体を見せますが、「はは、興味ないな」と隊で一斉に攻撃を仕掛けます。
そんな輪虎隊の強さを感じ取る玉鳳隊。
輪虎のほうでは、もともとの玉鳳隊300人に対しては精兵と認めつつも、「秦六将時代の修羅場をくぐり抜けてきた僕らとは経験の差があるかな」と余裕の表情。
そんな輪虎の言葉を「関係ない。兵がいかに強かろうと、隊長の貴様を討てば隊は崩れ、それで終わりだ」と、冷静に切り返す王賁。
輪虎に全力の突きをお見舞いします。
その様子に、「さすが」と盛り上がる玉鳳隊ですが、副長だけは輪虎の驚異的な強さを読み取っていました。
それは、輪虎も同じ。
「これまでかぞえきれないほどの槍使いと戦ってきたけど、その中でも君は群を抜いている」と評価します。
必殺技を繰り出すものの、急所を外してしまいます。
しかも、いつのまにか輪虎の剣が王賁の肩に。
体制を戻す間もなく、次の一撃!
…が、副将が身を挺して庇い助かります。
「ひとまず下がるぞ」と指示を出す副将。
「逃がさないよ」と迫る輪虎。
体制を立て直した王賁が、「この地にとどまって戦うぞ」と下がる副将の前に出ます。
…と、ものすごい地響きが響き渡り、飛信隊含む第二陣が近づいてきます。
分断される隊や壊滅される隊が出る中、異様な強さを見せる飛信隊。
隊としてはバラバラで連携がないのですが、時折、凄まじい爆発力を見せます。
その盛り上がりは、王賁や輪虎の耳にまで届いていました。
急造部隊。
しかも、もともといた飛信隊300人は、腕っぷしには自信があるけれども、頭を使う戦略は不得手。
作戦会議においても、それは見て取れました。
そんな様子から、信は「いきなり連携技とかやろうとしても無理だ。本番じゃ大失敗する」として個別で戦うことを提案。
楚水もそれには賛成。
ただ、一つだけ隊として決めごとを作りましょうと提案します。
隊長である信の号令で、狙い定めたところに千人一丸となって襲い掛かるというシンプルな作戦は、急造部隊の飛信隊にピッタリでした。
その破壊力はすさまじく、急造部隊とはいえ破竹の快進撃を挙げることに成功したのです。
さらに、飛信隊の攻勢が、他の隊にも伝染。
秦軍全体を盛り上げていたのでした。